患者様の大切な幹細胞は院内で培養します
孝仁会では、釧路孝仁会記念病院の中に幹細胞を培養するための「細胞培養加工施設」を設置し、厚生労働省に届出をしています。ここでは、どのように患者様の幹細胞が培養されているのか、また安全に投与するためのチェック体制などをお話しします。
細胞を増やす(細胞培養)
もともと生体内に存在している間葉系幹細胞の数は少ないため、採取した脂肪組織(10g程度)では治療に必要な数の幹細胞を得ることができません。そこで、わずかな数の幹細胞を人工的に増やす必要があります。これを細胞培養と言います。
細胞培養加工施設(Cell Processing Center:CPC)
2014年11月25日より再生医療等の安全性の確保等に関する法律が施行され、病院において治療のための細胞を培養するには厚生労働大臣への届出が必要になりました。当院では院内に厚生労働大臣へ届出た CPC があり、脂肪由来間葉系幹細胞の培養が行われております。
細胞培養の専門家 培養士
当院のCPCでは、細胞の培養を専門に行う技術職員として3名の培養士が培養業務を行います。患者様の脂肪組織から幹細胞を取り出し、それを培養して増やし、投与するために看護師に渡すまでには様々な工程がありますが、培養士はそれらの訓練を受けた培養の専門家です。幹細胞は患者様一人ひとりと同じく個性があり、増殖の具合や形など様々です。培養士は患者様の幹細胞を毎日観察して、栄養を与えるタイミングや、増やすための容器の大きさを変えるタイミングの判断など患者様の幹細胞毎に最後まで責任をもって培養を行います。ただし患者様によってはどうしても細胞がうまく増えてくれない可能性がありますので、その際は培養を中止することもございます。
品質と安全性を最重視した培養方法
当院では、患者様毎の幹細胞の品質をなるべく一定に保つために、常に同じ環境で培養を行うことのできる無血清培地を使用しています(培養初期を除きます)。また、まだ研究段階で議論の余地はありますが、無血清培地で培養した幹細胞は安全性の面でも優れている可能性を示唆する報告もあります。無血清培地は一般の培地よりも高価であるため、治療費用もやや割高となってしまうのですが、患者様により安全で安心な幹細胞治療を受けて頂くことをなによりも優先してこのような培養方法を採用しています。
高水準の管理体制
培養して規定の数に達した幹細胞は治療のために患者様の生体内に戻すことになります。従って、培養を行う CPC には高い水準の管理体制が求められます。そのため当院の CPC においては医薬品の製造や品質を管理するための法律(GMPといいます) に準拠した様々な管理を行っています。
清浄度の管理(環境モニタリング)
CPC の中はコンピュータにより室温、湿度、室圧、浮遊微粒子が24時間モニタリングされており、室温、湿度、室圧を一定に維持されています。また、培養士による環境モニタリングでは浮遊微粒子、浮遊菌、落下菌、付着菌といったものを測定し、部屋の清浄度を維持するようにしています。実際に患者様の細胞を扱う場所は、浮遊微粒子もほぼ無く無菌環境になっており安全に細胞を増やすことができます。
培養工程管理
当院ではコンピュータにより細胞培養の工程を管理しており、患者様ひとりひとりの培養フラスコもQRコードを用いた管理を行っております。実際に作業を行う培養士は訓練を受けていますが、このような管理をしなければ取り違えなどの懸念を完全に払しょくすることは難しいことです。しかし、全ての培養工程においてQRコードによる管理を行っているので安心です。
品質管理
患者様へお届けする細胞が汚染されていないかどうかを検査しています。無菌試験、エンドトキシン試験などの試験を行っています。また、患者様の細胞は凍結保存され長期にわたる保存が可能となっています。
参考
再生医療について |厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html