脳梗塞とは
日本人の死因トップ3で三大疾病と呼ばれるのが、がん、心臓病そして脳卒中です。脳卒中は脳血管に障害を起こす疾患で、脳の血管が破けて出血することで起きる「脳出血」「くも膜下出血」と、脳の血管が詰まることで発症する「脳梗塞」に分類することができます。また脳梗塞は詰まる血管の大きさや場所、原因によって(1)ラクナ梗塞、(2)アテローム脳梗塞、(3)心原性脳梗塞に大別されます。
脳梗塞の治療は時間との勝負である
脳梗塞の急性期治療は時間との勝負であり、発症から4.5時間以内では血栓を溶解する作用のあるt-PA静注によって脳血流を早期に回復させることが標準的な治療となります。また最近では、カテーテルをもちいた脳血管内治療(血栓回収療法)も注目されており発症後8時間以内で、t-PAが使用できなかったり使用したけど効果が低かったりした場合に行われるようになりました。このように、急性期の治療方法が進化したことで、死亡率の低下および機能的な予後についても改善する例が増えました。しかし、これらの急性期治療が最適な時期に行われる例は一部であるのが現状です。急性期で適切な治療が受けられなかった場合には、運動麻痺や失語症などの神経症状が後遺症という形で残ります。亜急性期の後遺症に対する治療はリハビリテーション以外にないのが現実で、その効果も受傷後6カ月頃になると、機能改善の停滞状態(プラトー)に達するとされています。
幹細胞による治療への期待
脳は一度、損傷を受けると再生しないと一般的に信じられてきましたが、近年は様々な臨床研究で再生の可能性を期待させる結果が得られています。幹細胞を使った再生医療についても、いろいろな種類の幹細胞や投与方法で研究が進められています。中でも臨床応用に向け活発な動きがあるのが間葉系幹細胞を用いて「脳梗塞」や「脳梗塞の後遺症」を適応とした再生医療です。これらは大学病院や再生医療ベンチャー企業主導で進められていますが、動物実験(前臨床試験)や臨床研究の結果に基づいて、保険適用を目的とした臨床試験(治験)がまさに今進められているところです。これらの臨床試験の多くは実施中のものが多く、終了していても結果が公開されているのは一部ですが、それらの報告によればまず間葉系幹細胞投与に関連した有害事象の発生は認められず、さらにこれまで他の治療法が無かった脳梗塞の後遺症に対して一定の治療効果があるとされています。ですがそれらの臨床試験が終了し、国に申請して医薬品として患者さんの治療に使えるようになるにはまだ年単位の時間が必要だと考えられます。また保険が適用になったとしても保険を使用して治療するには様々な条件が付与され、使うことのできる患者さんが限られることも予想されます。
釧路孝仁会記念病院の脳梗塞後遺症に対する再生医療
釧路孝仁会記念病院では前述の様々な研究結果等の報告を根拠として、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づいて、患者さんの幹細胞を用いた脳梗塞に対する治療計画を厚生労働省(北海道厚生局)に提出して受理されました。
脳梗塞の後遺症に対する治療は、脂肪由来幹細胞治療で行われます。
患者さんの脂肪組織は局所麻酔下で、主に皮下脂肪から採取します。採取する量は2~10g程度とわずかです。そこから間葉系幹細胞を取り出して培養し、数千万個~1億個程度まで増やします。増やした幹細胞は、点滴で経静脈的に全身投与を行います。投与後は約3週間を目途に、再生医療に最適化したリハビリテーションを集中的に実施して後遺症の軽減を目指します。治療の流れはこちら。